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2019-07-19

インクルーシブ教育とはー障害のある子どもと障害のない子どもが共に教育を受けること

近年、学習障害(LD)・注意欠陥多動性障害(ADHD)・高機能自閉症等の障害をもつこどもたちへの対応が議論されるなかで、インクルーシブ教育が注目されています。

インクルーシブ教育とは、障害のある子どもと障害のない子どもが共に教育を受けることです。

日本国内では、文部科学省が平成17年に「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)」の中で特別支援教育の制度が検討され始め、その中の一部として平成24年頃より「インクルーシブ教育」が提唱されるようになりました。

現在この取り決めに基づき、制度改正が進められている最中です。

この記事では、インクルーシブ教育とは何かを解説し、よく混同される概念や考え方、インクルーシブ教育のメリット・デメリットなどを説明しています。

後半では、文部科学省が実施する「インクルーシブ教育システム構築事業」の概要を説明していきます。

インクルーシブ教育とは

「インクルーシブ教育」とは、障害のある子どもと障害のない子どもが共に教育を受けることで、「共生社会」の実現に貢献しようという考え方です。

インクルーシブ教育は2006年12月の国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」で示されました。

ここでいう「共生社会」とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会のことを指します。

そしてこのような共生社会の形成に向けて、重要な理念となるのが「インクルーシブ教育システム」の考え方です。

「インクルーシブ教育システム」とは、障害のある子どもとない子どもが共に学ぶことを目的に、

  1. 障害者が一般的な教育制度から排除されないこと
  2. 自分が生活している地域で初等中等教育の機会が与えられること
  3. 個々人に必要な合理的配慮が提供されること

の3つが必要だとする考え方です。

そしてこのインクルーシブ教育システムの構築には上記の①~③の考え方に基づいた「特別支援教育」が必要不可欠とされています。

③にある「合理的配慮」は、『障害者の権利に関する条約「第二十四条 教育」』において、以下と定義されています。

障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。

インクルーシブ教育において、合理的配慮は必須の考え方です。

合理的配慮の事例として考えられるのは、教員の確保、設備の整備、個別の教育支援計画や指導計画に対応した柔軟な教育などです。

インクルーシブ教育と混同されやすい概念・考え方

インクルーシブ教育と混同されやすい概念として、「ノーマライゼーション」「ユニバーサルデザイン」「インテグレーション教育」などが挙げられます。

ノーマライゼーションとは

「ノーマライゼーション」とは、「障害のある人が障害のない人と同等に生活し、ともにいきいきと活動できる社会を目指す」という理念です。

英語の「Normalization」には「標準化」「正常化」「常態化」といった意味合いがありますが、ここでは「以前は特異なものと思われていたことが、当たり前の状態になること」を意味しています。

つまり、障害者側を変えるのではなく、それを取り巻く環境や健常者の意識といった「周りが変わる」ことで、障害者がありのまま健常者とともに生活ができるようにすることを目指しています。

ユニバーサルデザインとは

「ユニバーサルデザイン」とは、ノーマライゼーションの概念の一部で、「はじめから誰にでもやさしい商品や環境であるためのデザイン」のことです。

障壁をなくすのではなく、そもそも障壁のない設計を当たり前にするという考え方です。

インテグレーション教育とは

「インテグレーション教育(統合教育)」とは、ノーマライゼーションの理念を具現化したもので、前提として子どもを障害の有無により区別したうえで場の統合を進めようとする考え方です。

しかし、これは健常児に障害児が同化することを強いるような教育になっているとの批判もありました。

そこから、全ての子どもに平等に学習活動を保証する「インクルーシブ」の理念が生まれました。

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インクルーシブ教育の実現を目指す背景

長い間日本の障害を持つ生徒に対しては、教育の機会が与えられていませんでした。

1979年に養護学校が義務化されたことでようやく全ての子どもが教育を受ける仕組みができました。

しかし、それ以降も障害のある子どもとない子どもを分けて教育し、特別な支援が必要な児童生徒には地域の学校ではなく特別支援学校に行かせる「分離教育」が主流であり、それに対する批判も市民の中から聞かれるようになりました。

こうした背景から障害者の権利の重要性が指摘され、世界的にインクルーシブ教育が教育政策の中心的な課題となっています。

日本においても、インクルーシブ教育の実現に向けて様々な取り組みが行われるようになりました。

インクルーシブ教育のメリットとデメリット

障害を持つ子供、その保護者

メリット デメリット
  • 今まで受けられなかった教育が受けられる。
  • 特別支援学校だけでなく、自分が生活する地域の学校に通うことができる。
  • 合理的配慮によって特別扱いされることへの心理的負担
  • 周りの子どもからのいじめといった被害の可能性

周囲の子ども

メリット デメリット
障害者と接する機会が増えることで、共生社会の理念を理解することができる。 授業の進行が遅れることがある

指導者

メリット デメリット
  • 療育や医学的な知識が身に付く
  • 多様な子供たちと関わることで、保育スキルが身に付く
  • 合理的配慮をどこまで行うかの線引きが難しい
  • 授業進行が滞る場合がある
  • 合理的配慮による業務の増加

教育機関

メリット デメリット
将来的なインクルーシブ教育のニーズに早期に応えることで、社会貢献につながる 環境整備のための予算が必要

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文部科学省のインクルーシブ教育システム構築事業について

文部科学省では、「インクルーシブ教育システム構築事業」を平成25年から特別支援教育の一環として推進しています。

内容

インクルーシブ教育システム構築事業では、主に以下4つの事業を行っています。

  1. 新たな就学先決定:就学先決定に必要な早期からの情報提供や相談会の実施。早期支援コーディネーターの配置。
  2. 障害のある児童生徒への専門的支援:小・中学校を支援する特別支援学校に「言語聴覚士」や「作業療法士」等を配置。
  3. 合理的配慮:「合理的配慮協力員」の配置。
  4. 医療的ケア:医療職の専門家の活用推進。学校に「看護師」を配置。

文部科学省はこれらのインクルーシブ教育システム構築事業の事例を毎年ホームページに掲載しており、事業推進に向けて新たな事業計画を作成しています。

予算

インクルーシブ教育システム構築事業の予算は、文部科学省のホームページにて公表されています。

2019年現在発表されている、直近3年間の予算は以下です。

年度 予算
2015年度 11億6,658万円
2016年度 10億111万円
2017年度 14億5,171万円

この事業の予算は、例年10~15億円程度で組まれています。

主な取り組み内容は、支援を必要とする子供への支援体制整備、特別支援教育の専門支援人材の配置・活用などとなっています。

インクルーシブ教育システム構築事業モデルの例

インクルーシブ教育システム構築事業モデルスクール

インクルーシブ教育システム構築モデルスクールとは、委託を受けた教育委員会や学校法人がモデル校を指定し、同校にて合理的配慮を提供するための体制を整える事業を指します。

モデル校が実施した、合理的配慮に関する内容を児童生徒ごとに記録しています。

ここでは、平成25年度インクルーシブ教育システム構築モデル事業に採択された、千葉県教育委員会の取り組み、成果、今度の課題を紹介します。

千葉県教育委員会

千葉県教育委員会は、浦安市立東小学校、明海小学校をモデルスクールに指定しています。

感情のコントロールが苦手な児童等に対しソーシャルスキルトレーニングや学習支援を行っており、特別支援学級を開設しているなどの条件から同二校を指定しました。

主な取り組みとして、市の専門家チームや学校、合理的配慮協力員間での情報共有、全教職員を対象とした合理的配慮協力員を講師とした研修会の開催、市の専門家チーム員による、保護者や学級担任と個別の指導計画をもとにした面談の実施を行いました。

成果

  • 学校と合理的配慮協力員、市の専門家チームによる合理的配慮の事例の蓄積
  • 校内委員会の在り方の検討
  • 「特別支援教育に関する」研修会の実施

課題

  • 合理的配慮の提供に関する検討や研究
  • 校内で共通理解を図る
  • 教育委員会すべての指導主事が、教職員に特別支援教育の視点を持った指導・助言を行う

インクルーシブ教育システム構築モデル地域(交流及び共同学習)

インクルーシブ教育システム構築モデル地域(交流及び共同学習)とは、指定された地域内の学校で、児童生徒の相互理解を図ることを目的として、一定の期間に継続的・集中的に交流および共同学習を実施することです。

ここでは、平成26年インクルーシブ教育システム構築モデル地域(交流及び共同学習)事業に採択された、東京都文京区における取り組み、成果、今度の課題を紹介します。

東京都文京区教育委員会

東京都文京区では、特別支援学級が設置されている、小学校7校・中学校3校にて、特別支援学級と通常の学級との交流および共同学習の推進を実施しました。

主な取り組みとして、交流および共同学習のガイドライン作成、交流学級担任と特別支援学級担任との連携強化、交流および共同学習支援員の設置を行いました。

成果

  • 児童生徒の社会性や集団参加の力の定着
  • 通常学級の児童生徒が、特別支援学級の児童生徒を身近に感じるようになった

課題

  • 障害特性に応じた支援の充実
  • 交流および共同学習による、効果検証方法の検討(アンケートの実施など)

インクルーシブ教育システム構築事業モデル地域(スクールクラスター)

モデル地域(スクールクラスター)とは、指定された地域内の教育資源のこれまで以上の積極的な活用を目指そうとするものです。

障害のある児童生徒等のケース検討会議の実施、担当教諭による学校への支援、特別支援教育に関する合同研修会の開催などといった事業があります。

ここでは、平成26年度インクルーシブ教育システム構築モデル事業(スクールクラスター)に採択された、東京都品川区教育委員会の源氏前小学校エリア・鮫浜小学校エリアと区内幼稚園・中学校区での取り組み、成果、今度の課題を紹介します。

東京都品川区教育委員会

東京都品川区内の東西地区それぞれに拠点校(源氏前小学校、鮫浜小学校)を指定し、地域の支援リソースを活用したネットワーク化を推進しています。

主に、通級指導学級と在籍学級の連携充実、通級指導担当教諭による巡回指導、幼稚園と関係機関の連携、円滑な就学支援に取り組みました。

成果

  • 品川区の基礎的環境(通級指導学級、介助員制度、生活支援チーム、スクールカウンセラー、専門家巡回相談、特別支援学校等)の連携した支援システム構築の推進
  • 特別支援教育に関する教員の指導力向上
  • 区の生活支援チームや地域リソースとのネットワークの構築
  • 「幼小の担任連絡会」の開催

課題

  • 訪問指導を行う通級指導学級の拡大と在籍校の相互協力による支援システムの充実
  • 幼保小中の連携と地域支援リソースの協力・連絡体制の充実

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