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2020-09-07 2024-09-06

ワーキングメモリを鍛える方法 -「長期記憶」利用でパフォーマンス向上

ワーキングメモリを鍛えると学習や仕事でより力を発揮できると考えられますが、ワーキングメモリの機能そのものを鍛えるのは難しいとされています。

しかし「長期記憶」を利用すればパフォーマンスを向上させられる可能性があります。

ワーキングメモリと長期記憶の関係、記憶定着に有効な方法ついて解説します。

この記事の監修者

Education Career 編集部

教育業界専門の転職エージェント「Education Career」の編集部です。年間で数百名の教育業界出身者の転職やキャリアの支援を行う転職エージェントとして、教育業界での転職活動やキャリアに役立つ記事を更新しています。

ワーキングメモリとは

ワーキングメモリとは、ある情報を短い時間に心の中に保持しながら同時に処理する能力で、高度な心の働きに関係する記憶システムです。

本を読みながらその内容を覚えておく、買いたい物を覚えておきながらスーパーへ行き買い物をするなど、日常生活のさまざまな場面で私たちはワーキングメモリ使用しています。

ワーキングメモリにどれだけの容量の情報を記憶できるか、ワーキングメモリに保持された情報をどのように処理するかには大きな個人差があると言われています。

▶ワーキングメモリとは?学習・仕事・日常生活を支える脳のはたらき

ワーキングメモリを調べるテスト

ワーキングメモリの容量を測定する代表的なテストの一つが「リーディングスパンテスト」です。

リーディングスパンテストは、順番に出される文を読みながら、文の中にある特定の単語を覚えておき、あとで単語を思い出して答えるというものです。

ほかにも、「イヌ・ウミ・イシ」などいくつかの単語を記憶したあと思い出して言う課題や、いろいろな周波数の音を順番に聞き、今の音と前に聞いた音と同じか異なるかを答える課題があります。

単語ではなく、「1・7・4」と数字を記憶する場合や、最初に聞いた順序とは逆に再生する場合(「イシ・ウミ・イヌ」や「4・7・1」が正解)もあります。

こういったワーキングメモリを測定する課題の成績は、4歳から15歳頃にかけてほぼ直線的に増加し、さらに30歳頃まで伸び続けることが報告されています(出典1)。

一方で、ワーキングメモリの働きは加齢により低下することも分かっています(出典2)。

「電話したのに大切な要件を言い忘れる」といった高齢者の記憶の特徴は、ワーキングメモリの低下によるところが大きいようです。

ワーキングメモリを鍛えるには

パソコンとスマートフォン

ワーキングメモリをトレーニングすることができれば、家事の効率をあげたり、年をとってからの物忘れを防いだりできるかもしれません。

ところが、効率よく記憶する方法を身に着けることはできても、ワーキングメモリそのものを鍛えるのは難しいといいます。

特に心理学や関連領域では、ワーキングメモリのトレーニングには効果がない、あるいは非常に限定的だと考えられています(出典3)。

繰り返し練習してもほかの行動に応用しづらい

ワーキングメモリを鍛えるためにある課題を繰り返したとして、成果が期待できるのはその課題のみです。

別の課題の成績もあがったなら、それは、両者の課題が類似している場合。

つまり、ワーキングメモリ自体の機能が向上したのではなく、ある課題の目標を達成するために必要な行動や考え方など、“効率のよい方略”を理解したのだと考えられます。

日常生活に置き換えてみましょう。

仕事で大事な書類を作成している最中に取引先から電話がかかってきので、電話に出て、新しい案件の依頼を受け、打合せの日程を調整してから電話を切ります。

すると、書類に書こうと思っていた文章を忘れてしまいました。

このような状況を打開するため、文章をく途中で他の人と会話し、文章作成に戻るということを何度も繰り返し練習します。

結果、先ほどのように書類作成と電話応対が同時に発生しても、両方をこなせるようになりました。

しかし、だからといって家事の効率があがるわけではありません。

このトレーニングで獲得したのは、あくまで書類作成+電話応対の場面だけで有効な方略であって、ワーキングメモリの機能そのものが向上したわけではないのです。

さらに、残念ながらワーキングメモリトレーニングの効果は一過性のものだと考えられています。

トレーニング直後には類似課題であれば成績が高まりますが、数か月後に調べるとその効果も消えてしまうのです。

「長期記憶」でパフォーマンス向上?

読書をする女性

トレーニングによりワーキングメモリの機能そのものを向上させることは難しいものの、ワーキングメモリを働かせる際に必要な「上手な記憶の仕方」なら身につけられるかもしれません。鍵を握るのは「長期記憶」です。

ワーキングメモリは、単体で働くのではなく長期記憶と連動しています。

そのため、ある課題を行うために必要な知識や手続きを長期記憶として定着させておけば、その分ワーキングメモリを別の情報処理に使うことができ、結果的に課題のパフォーマンスを向上させられます(出典3)。

長期記憶に情報を定着させる方法については、認知心理学などの知見によって昔から数多くの実効性ある方法が確立されていて、例えば次のようなものがあります。

  • テキストを繰り返し読む
  • 定期的にテストする
  • ほかの人に教える
  • 分散して学習する

テキストを何度か読んだり定期的にテストしたりすることは、ある情報を繰り返し想起することになり、学習を促します。

ほかの人に教える方法も効果的で、誰かに内容を説明することで情報の意味をよりよく理解できます。

また、何かを学習するときには同じことを一度に続けるよりは、分散して学習する方が長期記憶への定着がよくなります。

こうした方法を日常生活の場面で活用し、長期記憶を活用することで、ワーキングメモリのパフォーマンスを高めることはできるでしょう。

発達障害の特性との関係

近年、ワーキングメモリは国語や算数(数学)などの学習と密接に関連していることがわかってきています。

5歳時点のワーキングメモリ課題の得点は、6年後、11歳になったときの読みや数学の成績を的確に予想すると言われています (出典4)。

一方で、ワーキングメモリの発達は個人差が大きく、特に発達障害の人の中には、しばしばワーキングメモリに問題を抱えている人がいます。

そのような人に対してワーキングメモリそのものを鍛えようとしても、上述した通りあまり意味がありません。

ワーキングメモリに限定せず、子どもの特性は一人ひとり異なるため、その発達の特性を正しく把握することが大切です。

例えば文を読むことが苦手な場合、ワーキングメモリが弱いのか、ADHD(注意欠如・多動症)等のためある対象に注意を向けることが苦手なのか、あるいは家庭や学校、職場環境が影響しているかなど、関連する要因は複数考えられます。

各要因に応じた支援が求められるのです。

具体的なトレーニングを繰り返そう

ワーキングメモリトレーニングは、特定の領域における能力を高めることはできても、あらゆる領域に共通する一般的な能力を高めるのは困難です。

しかしながら、長期記憶を利用し課題の達成に必要な方略を身につけることができれば、類似した場面におけるパフォーマンスを向上させることができます。

このことから、学習や仕事、家事、育児など全てに共通する機能を高めようとするのではなく、場面に応じた具体的な内容を繰り返しトレーニングすることが現実的だと考えられます。

ただし、ワーキングメモリを働かせることは非常に高度な情報処理なので、認知的負荷の高い活動です。

一日に何度も行ったり、長期に渡ってトレーニングを行ったりすると、頭も心も疲れてしまい、逆にパフォーマンスが下がってしまうかもしれません。

あくまで自然な状況の中でちょっとした工夫を心がけるとよいでしょう。

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出典

1) 湯澤正通. (2019). ワーキングメモリの発達と児童生徒の学習: 読み書き・算数障害への支援. 発達心理学研究, 30, 188-201.
2) 苧阪満里子. (2016). ワーキングメモリとこころの発達. 学術の動向, 21(4), 63-66.
3) 坪見博之・齊藤 智・苧阪満里子・苧阪直行. (2019). ワーキングメモリトレーニングと流動性知能. 心理学研究, 90, 308-326.
4) Alloway, T. P., & Alloway, R. G. (2010). Investigating the predictive roles of working memory and IQ in academic attainment. Journal of experimental child psychology, 106, 20-29.

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