2021-02-16 2022-07-08
ソーシャルスキルとは?種類と定義 対人課題を解決するヒント
ソーシャルスキルとは、社会の中で他者と関係を築いたり、一緒に生活を営んだりするために必要とされる技能のことを言います。
一般には「コミュニケーション能力」「社会生活技能訓練」「生活技能訓練」などと呼ばれ、21世紀を生き抜くための能力として注目されています。
たとえば、経済産業省は2006年から「社会人基礎力」を提唱しており、職場や地域社会で多様な人々と協働して仕事をしていく力が重視されています 。
ソーシャルスキルの定義
定義にはさまざまな説がありますが、おおよそ、ソーシャルスキルは対人関係を円滑にするための技能であり、相手から肯定的な反応をもらい否定的な反応を避けるための技能といえます(出典2)。
ソーシャルスキルは精神科領域から発展したとされているものの、今では、教育領域、就労支援関連領域、社会人のメンタルヘルス領域など、社会生活のさまざまな場面で使われるようになりました。
相手に不快な思いをさせないよう振る舞うのと同時に、相手からの反応によって自分自身も不快な思いをしないようにすることもソーシャルスキルの一つと言えます。
さらにソーシャルスキルとは、対人場面において適切かつ効果的に反応するために用いられる言語的・非言語的な対人行動と、そのような対人行動の発現を可能にする認知過程との両方を包含する概念として定義されています(出典3)。
つまり、ある場面に遭遇したときにその状況をどのように感じ、どう捉えるかというその人の考え方もソーシャルスキルに含まれていると言えます。
このように、ソーシャルスキルとは「特定の場面における判断や行動のパターン」のようなものと考えることができます。
まとまった一つの能力というよりも、個々の状況に即した具体的な行動の一つひとつのことを指しているのです。
ソーシャルスキルの種類
ソーシャルスキルの種類は年齢や場面により異なります。ここでは、社会人(成人)に求められるソーシャルスキルを解説します。
成人のソーシャルスキル6つの種類
成人のソーシャルスキルを測定する方法の一つとして、相川らが2005年に提唱した尺度を紹介します(出典3)。
この尺度では、ソーシャルスキルは6種類に分けられています。
(1)関係開始
初対面の人に上手に自己紹介ができる、誰とでもすぐに打ち解けられる、気軽に会話に参加することができるなど、相手との関係を築くためのスキルです。
(2)解読
誰かと会話をしているときに、相手の表情のわずかな変化を感じ取ったり、自分の言葉が相手にどのように受け取られたか察しがついたりするなど、表情やしぐさからその人がどのように感じているかを読み取るスキルです。
(3)主張性
自分が不愉快な思いをさせられたときそのことをはっきりを伝える、やりたくないことははっきりと断るなど、自分の考えを述べることや、人から非難されてもうまく片付けたり、相手と意見が異なることをさりげなく示したりすることに関わるスキルです。
(4)感情統制
自分の気持ちを顔に出さないようにするなど、感情を上手にコントロールするためのスキルです。
(5)関係維持
相手の立場やその場の状況に即して適切な行動をとったり、トラブルが起きても上手に処理するなど、周囲の人たちと良好な関係を保つためのスキルです。
(6)記号化
表情豊かに、あるいは身振り手振りをまじえて話すことなど、自分の感情を上手に表現するスキルです。
仕事に関わるソーシャルスキル
仕事に関わるソーシャルスキルには「KiSS-18」と呼ばれる別の尺度があります。
Kiss-18には、他者との直接的なコミュニケーションだけでなく、
- 自分が仕事をするときに何をどうやったらよいか決められる
- 仕事の上で、どこに問題があるのかすぐに見つけることができる
- 仕事の目標を立てるのに、あまり困難を感じない
など、自分が効率よく仕事をすることに関わるスキルが含まれています (出典2)。
ソーシャルスキルと発達障害
発達障害がある人の中には、ソーシャルスキルに課題を抱える人もいます。
中学校の養護教諭を対象に実施した調査(出典4)によれば、発達障害の生徒が背景に抱える問題の一つにソーシャルスキルが乏しいことが挙げられています。
たとえば注意欠如/多動性障害(ADHD)の人は、その場の状況に応じて自分の行動を調整したり、自分の気持ちを抑えたりするといったコントロールが難しいという特徴があります。
また、自閉症スペクトラム障害は「社会的コミュニケーションと社会的相互作用の障害」「行動・興味および活動の限局されたパターン的な繰り返し」という2つの特徴から定義される障害で、いわゆる「空気を読む」ような振る舞いが苦手だと言われています。
これらの障害がある場合、ソーシャルスキルトレーニング(SST)を行うことで、特定の場面での適切な振る舞い方や周囲の人との関わり方を効果的に学ぶことができることもあります。
ただし、ソーシャルスキルは個々の場面における具体的な行動パターンなので、発達障害児へのソーシャルスキルトレーニングの効果は限定的であるとの指摘もあります。
▶SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは?受けられる場所・方法・内容
発達障害がある場合、一つのソーシャルスキルを獲得しても、全く違う状況に一般化することは難しいと言われています (出典5)。
また、振る舞いを知識として獲得できたとしても、実際にそのような場面に遭遇したときに状況を理解したり、実際の状況に合わせて「自発的に」スキルを使用する決定ができないことも指摘されています (出典6)。
発達障害者を対象にソーシャルスキル習得を支援するときは、本人が自発的に参加できるように留意しながら、実際の場面に即してさまざまなソーシャルスキルを獲得できるようにすることが必要だと言えるでしょう。
ソーシャルスキルの注意点
障害の有無に関係なく、日常の仕事や生活の中で周囲の人と協働したいと考えている人や、上手に関係を築くことができず悩んだことがある人は多いでしょう。
そのような人も、個々の場面に即してどのような行動が適切かを具体的に学んでいくことは大切です。
ただし、ソーシャルスキルは個々の場面に限定された行動であるがゆえに、いくつかの注意が必要です。
最適な対処法は人それぞれ
1つめに、ある場面で学んだ行動パターンが別の場面でも有効とは限らないということです。
たとえば、目の前に泣いている人がいるとき、「どうしたの?」と声をかけて話をじっくり聞いてあげようという人もいれば、何も言わずそばに座って寄り添う人や、少し離れて落ち着くまで見守る人もいるでしょう。
どの行動が適切かは、泣いている人の性格や、泣いている理由などによっても変わってきます。
周囲の人の影響を受ける
2つめに、ソーシャルスキルにもとづく行動ができるかどうかは、周囲の人にも影響を受けるということです。
周囲の人たちがみんな協力的で協調性のある人なら、自分も自然と協働しながら関わることができるようになるでしょう。
しかし反対に、周囲にいじわるで自己中心的な人ばかりいるとどうでしょうか。
自分だけが協力的な態度をとっていては損をしてしまいますし、その人たちに近づこうとすることで自分が危ない立場に追いやられるかもしれないと感じると、協力的な態度はとれなくなってしまうでしょう。
単に望ましい行動がとれなかったとしても、その人だけの問題ではない場合があるということです。
ソーシャルスキルは変化する
最後に、獲得したソーシャルスキルはあくまで具体的な行動パターンの1つであって、その人の根本的な性格やその人自身の価値などを決定するものではないということです。
就職活動や入学試験などで、学力だけでなく「コミュニケーション能力」が重視されるようになってきています。
しかし、学力もコミュニケーション能力(ソーシャルスキル)もその人の一部でしかなく、それらの得点の高さが人間としての優劣を示している訳では全くありません。
さまざまな人と出会い、経験を重ねていく中で、対人関係の問題を解決する方法を1つずつ学んでいくことができるでしょう。
出典・参考文献
1) 塩谷芳也. (2019). 大学生のソーシャルスキルに対する出身階層と学生生活の効果. 京都産業大学論業, 社会科学系列, 36, 143—155.
2) 塩谷芳也. (2018). 大学生の就職活動における内定取得時期に対するソーシャルスキルの効果: 男女差に注目して. 理論と方法, 33, 349-356.
3) 相川 充・藤田正美. (2005). 成人用ソーシャルスキル自己評定尺度の構成. 東京学芸大学紀要, 第1部門, 教育科学, 56, 87-93.
4) 島崎由貴・畑中 愛・橋本創一・小林正幸・林 安紀子・伊藤良子・菅野 敦・大伴 潔・池田一成・小林 巌. (2009). 中学校における不登校・発達障害の生徒の傾向と支援の現状についての調査研究: 関東地域961校を調査対象とした検討. 東京学芸大学教育実践研究支援センター紀要, 5, 21-34.
5) 角南なおみ. (2020). 通級学級における発達障害研究の動向と展望. 東京大学大学院教育学研究科紀要, 59, 105-114.
6) 鳥居深雪. (2013). 脳機能からみた発達障害. コミュニケーション障害学, 30, 178-181.
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