2020-08-24 2020-08-27
非認知能力とは?世界が注目、生涯の学びを支えるちから
生涯を通した学びの姿勢や生活の質を高めるものとして「非認知能力」が世界で注目されています。
文部科学省も、「生きる力」や「汎用的能力」という言葉を用いて、子どもたちが未来を切り拓いていくための資質・能力を重要視するようになってきています。
非認知能力とはどのような力なのか解説します。
非認知能力とは
非認知能力とはどのような力で、なぜ重視されているのでしょうか。
非認知能力と認知能力の違い
非認知能力の対極といえる言葉に「認知能力」があります。
認知能力がいわゆるIQ(知能指数)に代表されるテストで測ったり数値化したりできる知的な能力(学力)を指すのに対して、非認知能力は認知能力“以外のもの”を広く指す言葉です。
OECD (2015) では少し具体的に「社会情動的スキル」とされ、「目標の達成」「他者との協力」「情動の抑制」といった下位カテゴリーが示されています。
つまり、非認知能力とは「目標や意欲、興味・関心をもち、粘り強く、仲間と協調して取り組む力や姿勢を中心」とする力と言うことができます (出典3)。
一概には言い切れませんが、例えば、やり抜く力、目標に向かって頑張る力、自制・自律性、自己肯定感、他者へ配慮、コミュニケーション能力などが非認知能力に該当すると考えられます。
非認知能力が世界で注目される理由
非認知能力が世界で注目されている背景には、急速な社会変化が挙げられます。
価値観が多様化するなか、学力至上主義を疑問視する声が強まり、急速に変化する社会を生き抜く力を育てるものとして、非認知能力への注目が高まっているのです。
「非認知能力」という言葉ははじめ、社会学の分野で労働市場において成功を予測する因子として登場しました(出典3)。
世界的に注目を集めることになったきっかけは、ヘックマンが紹介した「ペリー就学前計画」です。
「ペリー就学前計画」は、1960年代、経済的に恵まれないアフリカ系アメリカ人の子どもを対象に実施された教育介入プログラムで、その後40年にわたって追跡調査が行われました。
それによると、ペリー就学前計画を受けた子どもは受けていない子どもに比べ、月収や持ち家率が高く、犯罪率や生活保護受給率が低いという結果が得られています。一方で、小学校中学年以降の学力には大きな差は見られませんでした。
このことから、両者の違いを生んだのは“学力以外の何か”=非認知能力だと考えられたのです。
非認知能力は心の働きに連動する
非認知能力は心の働きに連動すると考えられています。
それゆえに、非認知能力はこれからの幼児教育の重要なテーマになるともいわれています(出典3)。
2018年度に施行された幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領では、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」として10の姿が明示されています。その中でも「自立心」「協同性」「道徳性・規範意識の芽生え」の3つは非認知能力に関連すると考えられます (出典2)。
意欲や態度・姿勢に関わる力は目に見えにくいため、非認知能力がしっかりと育っているか、あるいはどのようにすれば非認知能力を伸ばすことができるのかを見極めるには、子どもの姿を丁寧に把握することが大切です。
何事にも興味や意欲を持って取り組んだり、できた喜びや楽しさを周りの人たちと共有したりできれば、毎日の生活が豊かになるでしょう。
非認知能力を鍛えるには?
非認知能力を鍛えるには、子どもの自主性を大切にしつつ、幅広い観点からサポートする姿勢が重要です。
子どもの自主性を大切に
非認知能力は非常に広い概念です。
そのため、非認知能力を伸ばすと一言で言っても、実際には多種多様な力が含まれています。非認知能力を育てるためには、まずは具体的な子どもの姿に落とし込んで考えることが大切です。
その上で、子どもたちが自主的に参加したくなるような遊び・活動を用意しましょう。そのためには、大人(保育者)は子どもたちがいま、何に興味を持っているのかを適切に理解しなければなりません。
様々な活動の中で見せる子どもたちの姿から、「心の動きやその行動が生まれたそれまでの経緯、普段の生活の姿、他の子どもたちとの関係性などを丁寧に読み取り、それらをつなげて整理していくこと」が大切です (出典5)。これは、日本の幼児教育・保育がこれまでずっと大切にしてきた「心情・意欲・態度」にも重なります。
非認知能力だけに頼らないサポートを
非認知能力を育て、幅広いことがらに興味を持ち、目標に向かって友だちと協力して粘り強く取り組む姿勢を身につけることはとても大切なことです。
かといって、学力に通じる力をおろそかにしてよいわけではありません。先に紹介したペリー就学前計画の結果には、いくつか注意すべき点があるためです (出典1)。3つの観点を紹介します。
1つ目に、推測で非認知能力による差だと考察されている点です。
プログラムを受けた子どもと受けなかった子どもとの差がIQ(認知能力)で説明できなかった、ということのみが取り上げられており、差が生じた理由について具体的な検討は行われていません。大人との関係性の深まりや、養育者へのサポートの充実、地域とのつながりなど、認知能力以外の要素が影響を与えた可能性も想定できます。
2つ目に、ペリー就学前計画の「効果」が実際にはどれほどの大きさなのかわからないという点です。
このプログラムは、小規模の子どもたちに対して高投資で集中的な介入を行っています。同じことを大規模集団に対して行っても同じ効果が期待できるのか、その効果が介入コストに見合うのかといった点についても正当な評価をすることが必要です。
そして3つ目は、貧困家庭の子どもを対象に行われたという点です。
確かにプログラムを受けた子どもの方が多くの指標において優っていますが、それでも多くは同年代のアメリカ人の平均よりも低水準に止まっています。
低水準から平均への「追いつき」効果を示す結果が、例えば平均水準からさらに高水準への「上乗せ」効果としても見込まれることの根拠にするには難しいでしょう。
もちろん、たとえ特定の小規模集団における小さな効果であっても前向きに評価すべきです。
特に経済的に恵まれない家庭の子どもを対象にしているという点では、教育的意義を見出すことができます。子どもたちがどんなに豊かな遺伝的要素を持っていたとしても、劣悪な環境条件にさらされていれば、そのポテンシャルを発揮する機会は極めて少なくなるためです。
しかし、ペリー就学前実験の結果をもって非認知能力こそが最優先されるべき力だと言い切ってしまうのは、非常に危険だと言えるかもしれません。
生涯を通じた多様な関わりが大切
非認知能力は“学力以外”の幅広い能力をさし、目まぐるしく変化する社会情勢に対応する力として重要視されています。
特に幼児期における大人の関わりが注目されていますが、加えて、生涯を通じた多様な関わりが大切です。
従来の日本の教育では、文字や数などに直接的に関わる認知能力にばかり重きが置かれていました。
対して、それ以外の部分―−態度や動機づけ、パーソナリティを重要視する風潮が強まり、非認知能力が注目されるようになりました。しかし実は、非認知能力は、日本の幼児教育・保育の中で昔から大切にされてきた考え方の一つでした。
非認知能力の育成は、幼児期に特に重要だとされる一方で、幼児期にのみ形成されるわけではなく、それ以降、10代後半頃になっても鍛えられるとの報告もあります (出典7)。そしてそれは認知能力も同じでしょう。
いずれにせよ、幼児期だけに注意を向けていれば良いのではなく、生涯を通して人が発達していくプロセスを見通しながら、その基礎をつくっていく時期として幼児期を捉えることが大切です。
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出典
1)遠藤利彦. (2017). 非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法についての研究に関する報告書. 国立教育政策研究所, 平成 27 年度プロジェクト研究報告書.
2)伊藤理絵. (2017). 「保育内容 人間関係」再考: 非認知能力を育む保育の観点から. 名古屋女子大学紀要, 63, 285-297.
3)無藤 隆. (2016). 生涯の学びを支える「非認知能力」をどう育てるか. ベネッセ教育総合研究所「これからの幼児教育」, 18.
4)西田季里・久保田(河本)愛子・利根川明子・遠藤利彦. (2018). 非認知能力に関する研究の動向と課題: 幼児の非認知能力の育ちを支えるプログラム開発研究のための整理. 東京医大学大学院教育学研究科紀要, 58, 31-39.
5)西垣吉之・西垣直子・橋村晴美. (2018). 環境に関わって生み出される遊びにおける非認知能力の評価に関する研究. 中部学院大学・中部学院大学短期大学部教育実践研究, 3(2), 79-88.
6)OECD. (2015). Skills for Social Progress: The Power of Social and Emotional Skills: OECD Skills Studies. OECD Publiching.
7)戸田淳仁・鶴光太郎・久米功一. (2014). 幼少期の家庭環境,非認知能力が学歴, 雇用形態, 賃金に与える影響. 経済産業研究所, RIETI Discussion Paper Series.
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