2020-09-07 2023-12-12
ワーキングメモリとは?学習・仕事・日常生活を支える脳のはたらき
日常生活を支える脳の働きに「ワーキングメモリ」があります。
低下すると、複数のことを同時に考えながら作業できなくなったり、仕事のパフォーマンスが下がってしまったりといった影響が出るといわれています。
ワーキングメモリとは具体的にどういった機能で、うまく働かせるためにはどうしたらよいのか解説します。
この記事の監修者
Education Career 編集部
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ワーキングメモリとは
ワーキングメモリとは、日常生活のあらゆる場面で行動の目標や計画を記憶しておくために重要な脳の働きのこと。発達心理学では、ある情報を短い時間に心の中に保持しながら、同時に処理する能力のことを言います(出典1)。
ワーキングメモリは、勉強や仕事、家事、趣味まで、日常生活の中でさまざまな行動をするとき、行動の目標やプランを記憶しておくために必要な働きです。
例えば読書をしているとき、読んだ内容をすぐに忘れてしまうと、何が書かれているのか理解できないまま進んでいきます。
1冊の本の内容を理解するには、ワーキングメモリを活用して、読んだ内容を“本を読み終える”という目標を達成するまで内容を記憶しておく必要があります。
ワーキングメモリの測定方法
ワーキングメモリを測定する方法として考案された課題にはさまざまなものがあります(出典2)。
例えば、聞いた情報を一時的に記憶しておき、比較や並べ替えなどの処理を行いながらアウトプットする課題。
いろいろな周波数の音を順番に聞き、今の音と前に聞いた音と同じか異なるかを答える課題や、「イヌ・ウミ・イシ」などいくつかの単語を記憶したあと思い出して言うという課題があります。
目で見た情報に関するワーキングメモリを測定する課題も似ていて、いくつかのパターンの図形を順に見て1つ前のパターンと今のパターンが同じかどうかを答える課題や、提示された順序に従って図形を指さしていく課題があります。
ワーキングメモリのパフォーマンス低下で起きる問題

ワーキングメモリのパフォーマンスが低下すると、日常生活にも影響を及ぼします。
例えば、スーパーへ買い物に行ったとき、肝心なものを買い忘れたという経験はありませんか?
これは、
- スーパーに行って
- 買い物かごを取り
- 店内を歩く
という買い物に関わる行動をしながら「買いたいものをずっと覚えておく」、というワーキングメモリの働きがうまく機能しなかったために起こると考えられます。
ワーキングメモリが同時に保持できるのは3つまで
ワーキングメモリに保持できる容量はおよそ3つ程度と言われています。
しかし、実際どれだけの情報を記憶できるか、ワーキングメモリに保持された情報をどのように処理するかには大きな個人差があります。
また、すでに考えていることがたくさんあったり、内容が難しいとうまく覚えていられないというように、保持すべき情報の複雑さによっても、保持できる情報量は変わってきます。
経験もワーキングメモリに関係する
行動の経験頻度もワーキングメモリのパフォーマンスに関係しています。
家事でも仕事でも、一度に複数の作業を並行してこなしていくことがよくあります。初めはうまくいかなくても、経験を重ねるとこなせるようになる過程にも、ワーキングメモリが関係しているのです。
例えば晩ごはんを作るときには、食材を刻みながら別の食材を炒めたり煮たりしますよね。そのとき、「晩ごはんをつくる」という最終目標を忘れてしまう人はあまりいません。
しかし、作業順序などのプランを立てながら複数のメニューを効率よく作れる人とそうでない人がいます。この違いを生むのが「経験」であり、ワーキングメモリにかかる負荷が関係しています。
カレーを作り慣れている人は、具材を切る、炒める、煮込む、ルウを入れるといった一連の流れ(=手続き)を覚えています。
そのため、カレー作りの工程がある程度まとまった行動パターンとして自動化されています。レシピを見なくても作れる状態です。
また、カレーを作る手順が自動化されていれば、よく似た手順が必要なシチューを作るときにも応用できるでしょう。
このように、ある出来事の行動系列に関する知識は「スクリプト」と呼ばれ、私たちは日常の中のあらゆる場面でスクリプトを利用して一連の行動をスムーズに行っています (出典3)。
では、カレーを初めて作る人はどうでしょうか。
まったく初めての経験ではスクリプトは形成されていません。そのため具材を取り出す、切る、炒めるなどの手続きを、次は何をするのか確認しながら一つひとつ進めることになります。
具材はどのように切ればよいのか、どの順番で切ると効率が良いかまで考えようとするとさらに混乱してしまい、その間に別の料理を焦がしてしまうかもしれません。
つまり、料理を効率よく作れる人とそうでない人の違いは、ワーキングメモリにかかる負荷にあります。料理の料理の経験によって料理に関するスクリプトが形成され,ルーティン化されることで,大きな負荷をかけることなくワーキングメモリが働いているという点なのです。
どちらも「料理を作る」という目標を保持しながら,必要な行動をしているという点では、ワーキングメモリの容量には変わりありません。
ワーキングメモリをうまく機能させるには?

ワーキングメモリをうまく機能させるには、情報や記憶を保持しながらいかに“楽に”行動できるかが大切です。
日常生活では目標に関連のない情報も多く存在します。そのため、効率的に目標を達成するためには、不必要な情報を排除しながら必要な情報のみを保持するようにコントロールする必要があるからです(出典4)。
視覚情報・音声の両方を活用する
ワーキングメモリは、覚えておきたい内容が多くなればなるほど、認知的負荷が大きくなります。その負荷を軽減するため、視覚情報・音声双方を活用する方法があります。
覚えておきたい内容を繰り返し声に出したり、頭の中で何度も思い浮かべたりして忘れないようにしたことのある人は多いでしょう。これらは「リハーサル」と呼ばれ、記憶を保つのに有効な手段の一つです。
スーパーでの買い物なら、「にんじん、玉ねぎ、じゃがいも……」と繰り返すことで、購入する食材を覚えておけます。
また、覚えておきたい情報の量を減らすことも有効です。一つひとつの食材ではなく、「カレーを作る」と覚えておき、それと食材が結び付けば、楽に覚えられます。
視覚を手がかりにするなら、買いたい食材をメモしておけば、買い物をしながら「メモを見る」という単純な行動をすることだけを覚えておけばよくなります。
勉強や仕事をするうえでも、視覚情報と音声を利用すれば記憶をよりよく保持することができるでしょう。
例えば、やるべきことをリストアップしたメモをつくることで、全て頭の中で処理するよりも簡単に覚えられます。
また、覚えたい内容が複雑で難しくなるほど記憶しにくくなるため、簡単な内容に落とし込むことが有効な場合があります。
長い文章や複雑な歴史的出来事をそのまま覚えようとするよりも、絵や図などを描いておけば思い出しやすくなるというのが一例です。
このように、自分にとって情報を整理しやすい形に変換することは、その情報についての理解を深め,簡単には忘れない長期記憶として定着させることを可能にします。
ストレスには要注意
ワーキングメモリがうまく働くかどうかは一時的な環境や状態によっても変わると言われており,ストレスや不安が多いときはワーキングメモリ課題の成績が下がることが知られています。
ワーキングメモリは非常に高度な認知機能であるため、高い集中力が必要で、負荷の高い活動です。
考えなければならないことが常にたくさんあって頭が疲れいて、混乱しているときには、すでにワーキングメモリをいっぱいに使用しているためそれ以上機能させることはできません。
また、他に心配なことがあると、達成すべき課題に集中できず、普段なら問題なく覚えられることも覚えられなくなってしまいます。
疲れたときには頭を休める時間をつくったり、そもそもストレスをためないように周囲の環境を整えたりすることも、ワーキングメモリパフォーマンスをベストな状態に保つ上では大切です。
自分に合った方法を見つけ出そう
ワーキングメモリがうまく機能するために有効な方法は、個人によって異なります。目で見た方が覚えやすい人もいれば、何度も音を繰り返すことで定着する人もいるためです。
また、人によってそれまでに積み重ねてきた経験も異なるため、形成されているスクリプトも異なると考えられます。自分に合った方法を見つけ出すことが大切です。
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出典
1) 湯澤正通. (2019). ワーキングメモリの発達と児童生徒の学習: 読み書き・算数障害への支援. 発達心理学研究, 30, 188-201.
2) 湯澤正通・蔵永 瞳・齊藤 智・水口啓吾・渡辺大介・森田愛子. (2019). 児童・生徒用集団式ワーキングメモリアセスメントテストの作成. 発達心理学研究, 30, 253-265.
3) 柳岡開地. (2016). 場面変更に伴うスクリプトの柔軟な利用の発達的変化: 実行機能の影響の検討. 教育心理学研究, 395-406.
4) 坪見博之. (2013). 視覚性ワーキングメモリの容量と注意制御, 注意をコントロールする脳, 新曜社,67-92.
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