2019-10-30
スクールロイヤーとは文科省が全国に300人設置を目指す学校の問題を法的に解決する弁護士
2019年9月下旬の萩生田文科相の閣議後会見で、スクールロイヤーを全国的に配置する方針が示されました。
この会見後、特に学校に通う子どもの親や教育委員会、弁護士等から、スクールロイヤーが注目されるようになりました。
この記事では、スクールロイヤーの概要や必要とされる背景、導入事例等を説明します。
目次
スクールロイヤーとは学校の法的問題を解決する弁護士
スクールロイヤーとは、学校の法的問題を解決する弁護士のことです。
2019年現在は、スクールロイヤー制度を試験的に導入する自治体が現れ始めた状況にあります。
これまでも各自治体ごとに顧問弁護士がおり、教育委員会からの相談対応は行われていました。
しかし、いじめや虐待による事件が増加し、それが報道によって浮き彫りになりました。
そこで教育に専門的な知識を持った弁護士、スクールロイヤーを各学校に配置する方針が取られることになりました。
スクールロイヤーが必要とされる背景
スクールロイヤーの設置が検討され始めた背景には、いじめの認知件数の増加と、日本弁護士連合会による意見書の提出の2点が挙げられます。
以下で、参考資料をもとに、スクールロイヤーが必要とされる背景を説明します。
いじめの認知件数は54万件で過去最多
文部科学省が2019年10月に公表した「平成30年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」によると、小中高等学校の合計したいじめの認知件数は約54万4千件でした。
2015年度以降、いじめの認知件数は10万件ずつ増加しており、今回54万件は過去最多でした。
また、いじめを認知する学校の件数も増加しており、約8割の学校がいじめを認知しています。
このいじめの認知件数の増大は、学校にスクールロイヤーが必要であると考えられるようになった要因と考えられます。
2018年、日本弁護士連合会がスクールロイヤー整備の意見書を提出
2018年1月に「「スクールロイヤー」の整備を求める意見書」が日本弁護士連合会より文部科学大臣に提出されました。
この意見書は、法的観点から継続的に助言を行う弁護士を活用する制度が必要であること、そして活用を推進するための調査研究や法整備・財政的措置の実施を依頼するという内容です。
スクールロイヤーに求められる活動には、いじめや児童虐待、不登校、障害のある児童生徒への対応などが記されていました。
いじめのほか、教員と生徒・保護者と生徒・教員と保護者の間に生じる法的問題の解決支援が見込まれていることが分かります。
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スクールロイヤーの役割
スクールロイヤーに求められる役割は、いじめの予防と教師の業務負担軽減の2点があげられます。以下で、業務内容や活躍する場面などに触れながら説明しています。
法的側面からいじめを予防
スクールロイヤーには、いじめが認知された後に行われる学校の事実調査や指導などを支援することはもちろんですが、いじめを予防する役割が求められます。
スクールロイヤーは、学校側に予防的な教育や指導の重要性について助言を行い、今後の予防策の検討も行います。
教師の業務効率化・負担軽減
日本の教員の残業時間が国際的に比較してきわめて長いことは、近年教員の働き方に関して注目されている話題です。
学校を支える外部の法律専門家として、教員の業務負担を減らす役割が期待されています。
法的な問題だけでなく、福祉や心理、危機管理等といった分野でも、弁護士はその業務の多様性から支援が可能であると考えられています。
スクールロイヤーが行うこと
スクールロイヤーが行うことは主に、
- いじめ予防教育
- 学校における法的相談への対応
- 法令に基づく対応の徹底
の3点が挙げられます。ここでは、スクールロイヤーのこの3つの具体的な仕事内容について説明します。
いじめ予防教育
弁護士が実例(判例など)を用いて、人権を守ることの重要性やいじめの法律上の取り扱いなどについて生徒に説明を行う際の資料作りなどを行います。
授業モデルの構築や教材の開発などを、担当教諭と相談しながら行います。
学校における法的相談への対応
学校における法的諸問題はいじめに限った話ではありません。児童虐待や不登校、少年院等から学校に戻るケース、いじめが自殺事件に発展してしまうケースなど多岐に考えられます。
こういった法的諸問題に関して、スクールロイヤーは教員から相談に乗ります。教員が直接弁護士に相談できる体制づくりが求められています。
法令に基づく対応の徹底
いじめ防止対策推進法等に基づいて、いじめ問題への対応が徹底されているか、弁護士が法的側面から確認を行います。
「いじめ防止対策推進法」の第22条によれば、学校は専門的な知識を有する者等によって、いじめ防止対策の組織を置くものとされています。また同法第23条によれば、学校はいじめの再発を防止するため、専門的な知識を有する者の協力を得ながら対応することを定めています。
この専門的な知識を有する者として、スクールロイヤーが想定されています。
スクールロイヤー制度の導入事例
スクールロイヤー制度は、徐々に都市部の学校を中心に導入が進んでいます。
ここでは、いくつかの事例を取り上げ運営体制の概要等について簡単に説明します。
東京都港区は2007年より導入
日経新聞の2018年3月の「学校トラブル、弁護士が助言 東京・港区教委などが導入」の記事によると、港区教委は2007年度にスクールロイヤー制度を導入し、学校側からは「法律家の助言を踏まえ、自信を持って対応できた」都の声が上がっているようです。
2018年3月時点で21人の弁護士が計40校の公立幼稚園・小中学校に登録されています。
教員は直接弁護士に相談し、助言を受けることできます。場合によっては話し合いの場に同席してもらうことも可能です。
大阪府は大阪弁護士会の協力のもと、スクールロイヤー制度を導入
「大阪府 スクールロイヤー制度の施行実施について」によると、大阪府は生徒指導で解決困難な問題が急増していることからスクールロイヤー制度を試行的に実施しました。
2018年6月下旬から2019年3月にかけて、全府立学校にスクールロイヤーが導入されました。
東京都江東区は2019年4月より制度導入、予算約200万円
東京都江東区は、2019年度予算211万円をスクールロイヤー活用事業に計上したことを発表しました。(参考:「東京都江東区 2019年度予算概要」)
江東区は、「江東区いじめ防止基本方針」と「不登校総合対策」に基づき、学校・家庭等と相互に連携し、いじめや不登校の未然防止・早期発見・早期解決に向けて取り組んでいます。
スクールロイヤーのほか、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー活用事業に多くの予算を割り当て、事業改善に努める方針です。
文部科学省「いじめ防止等対策のためのスクールロイヤー活用に関する調査研究」
「文部科学省初等中等教育局 2019年度予算(案)主要事項」によれば、文部科学省は予算額約800万円を、学校における相談体制の整備に関する調査研究に充てています。
この事業はスクールロイヤーが介在し法的諸課題の解決の支援を行うことが、有効であるかの検証を行うものです。
調査結果の分析・検証等によって、いじめの防止と校務の効率化・負担軽減を図る方針です。
スクールロイヤーを全国に300人配置する方針(今後の方針)
萩生田文科相は、2019年9月24日に行った定例記者会見にて、スクールロイヤーを全国に300人配置する方針を示しました。
具体的には、
- 全国約300人
- 各都道府県の教育事務所:各1名
- 政令指定都市と本庁直轄の自治体:各2~3人
の配置を総務省に要求しました。財源は、地方交付税による地方財政措置を検討しています。
まとめ
- スクールロイヤーとは学校の法的問題を解決する弁護士のこと
- スクールロイヤーの役割はいじめの予防と教師の業務効率化
- 2018年度のいじめ認知件数は過去最多の約54万件を超えた
- 文部科学省は今後スクールロイヤーを全国に300人配置する方針
スクールロイヤーは、学校教育に関わる新たな職種として、教員の負担軽減の面で期待されています。
文部科学省の事業によりスクールロイヤーを導入した自治体から有効な成果が現れれば、より広くスクールロイヤー制度が広がっていくことでしょう。
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